高周波電力の測定誤差
大電力の高周波電力(とも限りませんが)を測定すると誤差が問題になることが頻繁にあります。高周波電力の測定誤差が生じる原因はいくつもあります。
- 測定器が変わった
- 測定方法が変わった
- 負荷が変わった
- 温度条件が変わった
- 被測定物(DUT:Device Under Test)が変わった
その他にもあるかもしれません。上記の項目もさらに細分化することができます。例えば1項の「測定器が変わった」というのも
- 測定器のロットが変わった
- 測定器のメーカが変わった
など、考えられるだけの種類が影響します。またその測定器を接続する系が変わっても、それは測定器が変わったという項目に含めることができます。例えば同軸ケーブルの特性インピーダンスのバラつき、同軸コネクタに変換コネクタを追加したなど、細かなことが影響を及ぼします。
厄介なのは上記の項目が複数絡み合った時です。さらに測定器自身の校正機能で校正したから正しいというのも、それは測定器の誤差の範囲に収めただけであって、絶対的な基準値を与えてくれるわけではありません。
また校正機関に出しても、それは校正機関のもつ基準に対してどれだけ誤差があるかという結果を知ることであり、誤差が無くなったということではありません。さらに校正機関の基準器の誤差も考慮する必要がある場合があります。特に通信や放送用ではなく、半導体のエッチング用(プラズマ発生用)などでは1000Wに対して0.1Wの誤差が影響する世界ですので、せっかく出した校正も形だけというのはよく聞く話です…トレーサビリティの問題はこの業界ではホント厄介です。
ではどうすればよいか…最終的にはどの項目がどれだけの誤差を与えているかを定量的に知った上で測定することが大切です。それには基準となる測定系(基準)を組み、その他の測定系の基準との誤差を定量的に予め知っておくことです。もちろん温度条件などの環境条件も含めて基準を決めることと、校正機関にその測定器を出すのであれば出す前と出した後の誤差をわかるようにする必要があります。
上記は一般論であり、具体化したルールを決めればある程度は誤差を打ち消すこともできます。が、ルールだけではなく誤差が生じる原因つまりなぜ誤差が発生するのかを知ることも大切です。これを知ることでお客様に誤差の説明ができることと、測定器メーカに要望として出すことができるからです。
原因については例えば2項の高周波電力を測定する方法には
- 方向性結合器を介して測定する
- 高周波電力をアッテネータ(ATT)で減衰させて熱電形電力計(カロリーメータ)や高周波電力計で測定する
などがあります。さらに次のように細分化できます。
- 周波数成分を無視して測定するカロリーメータで測定する
- 周波数成分を無視して測定する検波型の高周波電力計で測定する
- スペクトラムアナライザで測定する
DUTの特定の周波数での電力を測定するのが主な目的でしょうから、2-1-1の測定方法は誤差を見破るのが困難です。もちろんDUTの高調波成分が基準周波数より90dBとか100dBも違えば無視できますが、実際にはもっと悪い値を示すのが普通です。さらに方向性結合器自身の問題があります。
1つは周波数が2倍になると結合度が3dB増加(正確には10log(f1/f2)で求めますので2倍なら3.01dBとなります)しますが、これも方向性結合器の保証する周波数範囲での数値で、それ以上の周波数ではどのくらいの結合度を示すかは別な測定器で確認しておく必要があります。例えば第9高調波の周波数なら基準周波数に対して理論値は約9.5dBも多く出力されます。DUTの高調波レベルが高ければこれだけでも無視できない電力を測定してしまいます。さらに結合度誤差が加われば誤差はさらに大きくなることも考えられるからです。よくFETのアンプなどで第9調波などは増幅できないから出てないよ、などと言う人もいるようですが、DUTのフィルタの特性、FETのCrss(帰還容量)や安定のためにつけた帰還抵抗を介してのドライブ電力の出力への漏れなど、意外と出てしまうことが多いのも事実です。
方向性結合器の問題点は方向性も加味しなければなりません。さらにDUTの電力を消費してくれる負荷(ダミーロードなど)のVSWRも含める必要があります。負荷のVSWRについてはいずれ書きたいと思いますが、これはこれで苦労が伴います。
また上記では真値に対して各々誤差が存在します。これは検波型=電圧変換型ですから、電力Pと検出電圧Eの関係がP=E^2/Rという式からわかるように高調波などの成分が多く加算されてしまうこと、誤差が周波数ごとに違うという問題が、つまり測定値がフラットではなくリップルがあるということです。
60MHz3000Wでます…という製品がお客様のところの受け入れ検査で3090Wと測定されてクレーム扱いになったなどということも、上記のようなことをお客様とも十分に議論して同じ測定系でかつ定期的にお客様と自身の系の誤差を明らかにしておくことで避けられる場合があります。
実際には広い周波数範囲でVSWR=1.0、10kW連続でもVSWR変動無し、などという負荷は再現性が低いので負荷のVSWRもパラメータの1つに加えた上で測定する必要があります。さらにVSWRだけではなく、スミスチャートあるいはイミッタンスチャート上の定VSWR円上でどのような測定値を示すのかも知る必要があります。これもまた機会をあらためて書ければと思っています。さらに負荷が非線形の特性である(放電負荷など)ともっと厄介なことが発生しますが、これも機会をあらためて書ければと思います。
